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Aberrant Boys,Ordinary Day

アベレント・ボーイズ・オーディナリ・デイ

ニンジャスレイヤーファンフィクション

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掃除道具を片付けに行く途中、通り道になっている廊下がふさがっていた。ケマリ部のジョックス共が、誰かをケマリにしているらしい。バカバカしいことしてやがる。ユダカは迷惑そうに眺めていたが、ケマリにされているのが友達だと見るや、顔つきが変わった。

そいつは、両腕で頭をかばい、背中を丸めて蹴りを受けている。ユダカは、そのジョックスへの怒りでぎらつく目に向かって小さく頷いた。待ってろ、今行く。

ユダカはケマリ部の描く半円へ近づくと、出し抜けにモップの金具部分を、リーダー格のスユキに向かって振り下ろした。まるで肩を叩いてアイサツするように。「グワーッ!」スユキが頭を抑え、悶絶する。傷口から勢いよく血が噴き出して床を汚した。

あまりにも唐突な暴力に、残りのケマリ部が全員ユダカを見た。「ユダカてめえ! なにしやがる!」「何言ってるんだよ? こいつ、転んだだろ?」「エッ」「お前、転んだよな? なあ? 大丈夫か?」ユダカが明るい調子でモップを振り上げる。スユキは頭を抑え、悲鳴を上げた。「こ、転んだ!」

「お前がやったんじゃねえか! ふざグワーッ!」掴みかかろうとするケマリ部の喉あたりにモップの柄を無造作に差し出す。柄にぶつかって悶絶した。「お前らも見てたよな?」ユダカが聞く。

ケマリ部の誰もがユダカを見ておらず、赤いものがこびりついたモップの金具に釘付けだった。「こいつら転んだよな」「「こ、転んだ!」」「だよな」ユダカはモップを片手に、友達の腕を掴んで引っ張り上げた。

 蹴られまくって顔を腫らしたそいつは、怒りのくすぶる顔でスユキを睨んだ。「何があった」「……」「だんまりか。仕方ねえな。行くぞ、カシイ」

「お前ら……覚えてろ!」「転んだだけだろ?」スユキにそう答え、ユダカは友達――カシイの背中をどやす。カシイと呼ばれたその少年は、スユキに中指を立ててユダカの後を追った。「ユダカの野郎、許さねえからな……」


太いベースと緊張感を漂わせるシンセループ。賑やかなフロアで思い思いに踊ったり揺れたりする人。ユダカが最近通っているクラブだった。カシイはオノボリめいてきょろきょろしている。ユダカがカシイを連れてきたのは初めてだった。

カウンターでショットグラスをふたつ受け取ると、ユダカは片方カシイに渡した。「まあ、やれよ」ユダカは一息で飲み干し、カウンターに叩き付ける。体が熱くなり、音楽を全身で浴びる準備が整う。「いいね。上がってきた」

隣で、ユダカの真似をして飲み干したカシイが咳き込んでいる。「ダイジョブか?」「なんか、ぐらぐらする」ユダカは陽気に笑った。「俺も最初そうだった」カシイにケモ・ビールの瓶を渡す。

カシイは、ビールを飲む友達の横顔を見る。こんなユダカは初めてだ。ケンカの時も、パチンコで大勝ちした時も、ヤクザ事務所に爆竹を投げ込んだ時も、こんな静かで満ち足りた顔はしなかった。

「ユダカ、普段こういう所来てたのか」ユダカは頷く。「好きなんだ。こういう所」空間に満ちる万華鏡めいた光と音楽に、頭から爪先まで浸かるとき、世界まマシなものに見える。

「お前が気に入ってくれるか、わかんないけど」「気に入ったよ、俺。スゴイいいところだよ」アルコールと音楽の高揚感で、カシイは即答した。実際のところ、カシイは音楽に詳しくない。ユダカが、気に入りの場所へ自分を招いてくれたことが嬉しかった。

「やっぱり、ユダカはクールな奴だよ。すげえよ」「よせやい」照れくさそうにユダカは笑う。
 それからふたりはビールを飲み、思い思いフロアで揺れたり、カウンターテーブルでどの女がどうマブなのかを真剣に話し合った。

「ところで、今日、何してたんだよ。ケマリ部と」話の切れ間にユダカが尋ねる。本当はこれが聞きたかったのだ。「あいつらが気にいらねえ事言ったから、ケンカ売った!」「連中、なんて?」

「何人も病院送りにしてるサイコ野郎が、クール気取っててむかつくって」ユダカはケモ・ビール瓶をあおって笑った。「あいつら、くっだらねえな。でも、アリガトな」

 実際、ユダカの容赦なさはユダカに返り討ちに遭った連中の間では語りぐさだ。やられたからやり返した、シンプルな話だ。けれど、それを目の当たりにした友人達は引き潮めいてユダカから遠ざかった。

 今ではユダカにこうして付き合ってくれるのはカシイだけだ。どう仲良くなったかも覚えていないが、自分の代わりに腹を立て、一緒に笑ってくれる得難い友達だ。「ビールもう一本いくか?」「いいね」

 ユダカが、ビールをもらいに行こうとフロアの入り口へ視線を移す。なにやら騒がしい。ユダカはフロアから出るのをやめた。「どうした? ユダカ」「なんかヤバそうだ」

 ややあって、フロアで揺れていた人波が割れた。そこからモーセめいて現れたのは、脱色した髪を威圧的チョンマゲヘアーにした男だ。カシイが二人分ぐらい収まりそうな太い胴回り。そいつは、ユダカたちのテーブルへ真っ直ぐやってきた。面倒なことになりそうだ、と、ユダカは内心思った。

その後ろから、制服を着崩し、『ノー容赦』『御殿場』などの威圧的な刺繍が施されたトップクを羽織った若者達が現れた。トップクとは、無軌道ヤンク達のイクサ装束であり、刺繍を施した派手な色使いのロングコートである。すなわち、彼らはヤンクなのだ。
チョンマゲヘアーがふたりを見下ろす。「ユダカ=サン。スユキが世話になったじゃねえか」なるほど、スユキの兄貴か、と、ユダカは思った。確か、スモトリ部崩れの兄貴がいたと聞いている。その兄貴にチクったのだ。

「覚えがないんだけどな」「ザッケンナコラー!」とぼけるユダカが肩を張られてよろめく。ユダカはケモビールの瓶を持ち替えた。「何だよ。良い気分台無しにしやがって」

ユダカは持ち替えたビール瓶を振りかぶる! しかし、それはスユキの兄が組み付いてきたことで阻まれてしまう。「ドッソイ!」スユキの兄は、強引な抱え投げでユダカをフロアのカウンターテーブルへ叩き付けた。「グワーッ!」「アイエエエ!」フロアを、音楽ではなく暴力と悲鳴が満たしていく。

「ユダカ!」投げ飛ばされたユダカに気を取られたカシイを、強烈な張り手が襲った。「ドッソイ!」「グワーッ!」胸を突かれて倒れ込む。取り巻きヤンクがすかさずカシイに綺麗なトーキックを見舞う。カシイは腹の空気を全部吐き出した。

芋虫めいてもがく腹を蹴り転がされ、うつぶせになった。上で風を切る音が聞こえる。蹴りの音ではなかった。((やばい))カシイは体を緊張で硬くした直後、上から何かで殴られた。カシイは悲鳴を押し殺し、不敵さを装った。

「なんだよ。マッサージか?」逆効果だと分かっていたが、このままスユキの兄の前でブザマを見せたくなかった。あの時スユキに言われたのは、ユダカのことだけじゃなかったからだ。

『あのカシイってサイドキックも、弱いくせにユダカがついてるからって、調子乗ってやがる』それを聞いて、カシイは我慢できなかった。

ここでブザマを見せれば、スユキにそれが伝わってしまう。カシイの弱さに引きずられてユダカの格が落ちる。そんなのはゴメンだ。

先程と違い、今度は腰の入った打擲が降ってくる。転がって避けるが、その先にもヤンクだ。そのまま、文字通り囲んで棒で殴られる。カシイに沸き上がるのは、痛みよりも怒りだった。絶対一発やり返す。その気迫だけでヤンク達を睨め付けた。今日の夕方のように。

その時だ。「マッポを呼んだぞ! お前ら出入り禁止だ!」店内のスピーカーから店員の声。ヤンク達の動きが一瞬止まった。その隙を突いてカシイは起き上がり一発お見舞いしようとするが、ヤンク達は蜘蛛の子を散らすようにフロアから逃げ出す。

深追いしようとしたカシイを、ユダカの声が止めた。「カシイやめろ!」「けどよ、ユダカ!」「いいから、走れ!」客達を縫うように、ふたりは駆けだした。『何にせよ逃げるのが一番いい』というコトワザを、この間授業でやったばかりだ。

ユダカはなけなしの万札をカウンターに叩き付け「迷惑料!」と言い置き、カシイを引っ張ると通用口から逃げ出した。



マッポのサイレンが聞こえる廃ビルの非常階段で、少年達はようやく一息ついた。ユダカはぼたぼたと落ちてくる鼻血を拭った。殴られた時に切れたらしい。口の中もだ。打撲はこしらえたけれど、医者に行くほどのことではなさそうだった。

「カシイ」ぜえぜえと息を切らす隙間から呻くように友達の名前を呼ぶと、隣で同じような呻き声が返事をする。ユダカは息をつくと、サビだらけの鉄柵に寄りかかった。「怪我、どうだ」「まあまあ、ダイジョブ」

しゃがみ込んだカシイは、珍しく殊勝に謝った。「ゴメン。出禁になっちまって。俺がスユキにケンカ売ったせいで」「何だよ。気にすんなよ」ユダカは笑った。「楽しい場所は他にもあるんだぜ」「けどよ……」

カシイはうなだれる。こんなザマでは、スユキの言うとおりだ。ケンカに強くない。頭も良くないから、マズくなってもひとりでは切り抜けられない。その点、ユダカはクールな奴だ。

そんなユダカと友達でいられることは誇らしい。けれど、それに釣り合わない自分が悔しい。サイドキック、お荷物。そんな言葉がカシイを囲んで襲う。どんなケンカで殴られるより、それはカシイを重く殴りつける。「気にすんなって言ってるだろ? ブロ兄弟」

ユダカに足で小突かれ、カシイは顔を上げる。「兄弟」カシイはユダカの言葉を繰り返す。「マジで?」「マジで」ユダカが頷く。カシイは立ち上がり、ユダカの隣で笑った。

「よし、その調子だぜカシイ。まだ俺達は忙しいんだ」忙しい。それもそうだ。カシイが血混じりの唾を吐いた。「おう。あいつらにナメられちまったからな」
「やるぜ」ユダカが言う。「やろう」カシイは答える。少年達は剣呑な目で笑う。言葉はいらない。だってこれは、シンプルな話だ。


ネオサイタマ市街地から、やや離れた廃ボウリング場。そこがユダカ達を襲ったヤンクの巣。そこに向かって、ユダカとカシイは車を走らせていた。コケシマートの駐車場で、不用心な客から借りたものだ。作戦はなかった。連中に、彼らをナメたことを後悔させる。それだけだ。

目的のボーリング場が見える。「いくぞ」ユダカが声を掛けると、カシイはミラー越しに頷いた。その手には金属バット。

駐車場から見えるボウリング場は前面がガラス張りで、中の様子が分かる。電気の通らぬ建物内では、ドラム缶焚き火を囲み騒ぐヤンク達が、ざっと二ダース。クラブ襲撃からあまり間は開いていない。ユダカ達を話の種にでもしているのだろうか。

ユダカは涼しい顔で、ガラス壁に向かってアクセルを更に踏んだ。無灯火だった車のライトをハイビームにし、中のヤンク達に浴びせる。そして、植え込みを乗り越え、車はガラスを突き破りエントリーした。

CRAAAAAAASH! にわかに起こったデスパレートな乱入に、ヤンク達は逃げ惑う。狂騒の中でユダカはハンドルを切り、可能な限りヤンクを散らした。「行け!」

合図を聞いて、カシイはドアから飛び出した。虚を突かれたヤンク達を、雄叫びとともにバットで片っ端から殴り倒していく。カシイには、逃げる奴は放っておけと言ってある。深追いしなければカシイだって充分やれる。

たったふたりの中学生と侮ったことを、思い知らせる。急停車させ、ユダカはドアを蹴り開けた。ユダカを狙っていたヤンクがひとり、開いたドアにぶつかって倒れる。振り返らずに、ユダカもバットを手に駆けだした。

思ったよりカシイと離れてしまった。合流しようとバットを振るい、ヤンク達を牽制しつつカシイを探す。レーンの上で暴れ回るカシイの姿を認めたとき、カシイが、糸が切れたように倒れた。

一瞬、ユダカの足と時間が止まった。「カシイ」カシイの後ろにいるのは、スユキの兄だ。赤黒く染まる拳を打ち鳴らしてニヤニヤ笑っている。

「カシイにテメェ何やりやがった!」ユダカは巨漢を睨んだ。「俺の! ダチに!」うつぶせに倒れたまま微動だにしないカシイの姿。嫌な汗が流れる。「起きろ! おい! カシイ!」返事はない。

ユダカは奥歯を噛みしめ、深く息を吸った。持っている武器は金属バットと怒りだけだ。充分だった。息を吐く。呼吸をすることと同じだ。こいつらをぶちのめす。

腹は決まった。「アアアーッ!」自分自身にキアイを入れ、金属バットをヤンクの足の甲へ打ち下ろす。振り返りながら、右の肘を顎めがけ振り抜く。骨と骨がぶつかる音が体に響いた。

ユダカは自動販売機を背にヤンク達を迎え撃つ形を取った。振り下ろされる鉄パイプを躱す。代わりに殴られた自動販売機が、バチバチと火花を立てた。バットをスイングするように、相手の腹へ一発。くの字に体を曲げ、ヤンクは倒れる。ホームランだ。

金属バットを捨てる。真っ向から飛んでくる右ストレートの腕を取り、勢いを利用して他のヤンクにぶつける。ボーリングのピンじみて、ヤンク達はまとめてドラム缶の焚き火へ倒れ込んだ。次。椅子を掴んで顔面を殴りつける。次。

溶岩じみた怒りがユダカの燃料だ。振り下ろし、突き、薙ぎ払い、殴り、蹴倒す。自販機や柱に相手の頭を叩き付け、ボーリングのボールを投げつけもした。

道は開けた。カシイを助けないと。走り出そうとしたユダカの体が宙に浮いた。太い腕がユダカの体を掴み、持ち上げている。スユキの兄だ。足を動かし逃れようとするが、それは元スモトリ部の怪力が許さない。

 易々と持ち上げられ、体をボールラックに叩き付けられてしまった。「グワーッ!」「ナメやがって! ぶっ殺してやる!」血走った目でユダカの首を掴んで、引きずり上げる。「……やって、みろよ」「ナンオラー!」ボディーブローだ! 喉を絞められたユダカは声も上げられず体を揺らす!

しかし、首を絞める片手を掴んでいたユダカの手が、リバースキツネサインを作る。挑発行為だ。「ザッケンナコラー!」ボディブロー! 喉を絞められたユダカは声もあげられず体を揺らす! しかし、重い一発を食らいながら、それでもユダカの目は死んでいなかった。

なぜなら彼は見ていたからだ。昏倒していた友達が頭をおさえて起き上がったのを。ユダカはぎらついた笑みを浮かべた。



頭が濡れている。カシイがいぶかって触ると、どろりとした血が手を赤く染めた。自分の血だった。あたりを見渡すと、そこかしこでヤンクが倒れている。ユダカがやったのだ。((ユダカは?))首を巡らすと、スモトリ崩れに吊るし上げられているユダカがいた。

((ちくしょう! ユダカ!))立ち上がろうとして、一瞬ぐらつく。こんな怪我をしたのは久しぶりだ。いつも、危ないときにはユダカが助けてくれたからだ。ユダカがいたから無茶ができた。((待ってろ、今、行く))カシイは金属バットを杖代わりに、身を起こした。今度は俺が、ユダカを助けないと。

カシイは目に着いた大漁旗をバットに巻くと、ドラム缶焚き火で旗に火をつけた。「グワーッ! 熱い!」存外勢いよく燃え上がった炎に驚いたのも束の間、カシイはそれをデタラメに振り回しながら走った。友達のところへ。「ユダカ!」金髪の後ろ姿めがけてバットを振り下ろした。「ウオーッ!」

カシイの両腕に手応えが伝わる。「グワーッ!」スユキの兄の金髪が赤く染まった。「ウオーッ!」もう一発。まだ倒れない。更に打撃。着崩したXXLサイズのワイシャツに火が移り、ついにスモトリ崩れの巨体はユダカを手放した。

「ユダカ!」カシイは熱くなった金属バットを投げ捨て、ユダカへ駆け寄る。「助かったぜ」ユダカはカシイの手を借りず起き上がると、金属バットを握った。ワイシャツを脱ぎ捨てて火を消すスユキの兄へ、容赦ないフルスイング。

横面を殴る。何かが割れるような手応え。カシイのぶん。ぐらついた巨体のみぞおちを、残った力を振り絞り、鉄パイプの先端で突く。ユダカのぶん。苦悶の表情を浮かべて体を丸めた首筋に、とどめを振り下ろす。ふたりをナメたぶんだ。

スユキの兄はカートゥーンのカエルじみた声をあげて、その場に倒れた。

このケンカ、ユダカ達の勝ちだ。


ヤンク達から拝借したバイクで、ユダカとカシイは来た道を引き返していた。心地良い揺れと排気音が、彼らの熱を徐々に冷ましていく。「お互いひでえな、カシイ!」「ホントにな!」怒鳴るように声を掛け合う。

「ユダカ! 腹減った! ドンブリ・ポン食おうぜ!」「このカッコで?」「ダメか!」「ダメだろ!」ユダカは首をのけぞらせ、カシイに頭突きした。

「カシイ!」「おう!」「お前がいてくれて、よかった!」ユダカは言う。暴力の揺り戻しで今にも吐きそうだったが、自分をクールだと言うカシイの手前、クールでいなきゃいけない。そうやって意地を張らせてくれる相手が、後ろにいることが心強かった。

「何だよ、気味悪ィな!」今度はカシイが、ユダカの後ろ頭に軽く頭突きを食らわせる。「いってえ! お前、頭の傷開いても知らないぞ!」「うるせえ!」

カシイはバイクに刺さっていた邪魔な大漁旗を捨てた。「へへへ」「へへへ」窮屈な日常へ戻る少年達のバイクを、珍しく朝日が照らしていた。

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